Jean-Baptiste FONLUPT

那須田務 Tsutomu Nasuda

シューマンの幻想曲はリストに捧げられ、返礼としてリストは〈ロ短調ソナタ〉を献呈したことはよく知られ、この2曲を組み合わせたアルバムは少なくない。 フランスの中堅世代のピアニスト、ジャン=バティスト・フォンリュープはパリでリグットに学んだ後に、ベルリンでエントレス、ロンドンでソロモン、モスクワでヴィルサラーゼの下で研鑽を積んだ。 ヨーロッパの良質な音楽性と教養を持つ人と想像されるが2019年3月にシャンベリーで行なわれたリサイタルのライヴ盤を聴くとそのことが実感される。 シューマンの第1楽章冒頭に掲げられた「地上の様々な夢が奏でるすべての音を貫いて、一つの小さな音が人知れず耳をそばだてる人に届けられる」というモットーにふさわしい憧れの情感に満ち、音楽は無理なく自然に流れる。 第2楽章には生き生きとしたリズムと高揚感があり、メランコリックで詩的な余韻に満ちた中間部が快い終楽章の序奏と主題は比較的淡く切々と語りかけるようだ。 リストのソナタのタッチはいくぶん柔らかくてフレージングも柔軟性に富み、第2部の緩徐なアンダンテ・ソステヌートのリリカルかつカラフルな音色が美しい。 スケルツォ部分の煌めくような高音も同様。 フーガから大きく高揚していき、プレスティッシモも相当な速さ。 音楽が外へと大きく広がるダイナミズムが壮快。 今月のガヴリーロフ同様力強いヴィルトウオーブだが、こちらの方がいくぶん柔らかく感覚的だ。

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