Jean-Baptiste FONLUPT

草野次郎 Jiro Kusano

推薦

フォンリュープはフランスの実力派ピアニストでこのCDは約3年前のライヴ・リサイタルの熱演が収められている。 曲目のシューマン〈幻想曲〉とリスト<ロ短調ソナタ〉は、作曲家のお互いへの献呈曲ということで繋がっている。 フォンリユープの演奏は細心にして大胆なピアニズムが魅力で、まず<幻想曲〉では冒頭の第1主題(クララ主題)の18小節間の中に多様な表情を織り交ぜて、シューマンの多感で傷つきやすい繊細な情感を見事に表現している。感情の起伏の激しさから一つのモティーフ、一つの音型をきっかけに炎のような情感が燃え上がり、そして消えていく。 フォンリュープの演奏はシューマンの複雑な想いを音化し、その積み重なりがシューマン特有の曲の造形美を形作っている。 第2楽章では縦のリズムよりは横のエネルギーの流れが勝ち、何かに駆られるように前進し、その速いテンポのまま超絶パッセージに突入していく。 第3楽章は柔らかなレガートを中心にナイーヴな夢幻の世界に入り、ロマンティックの極致を聴かせている。 一方〈ロ短調ソナタ〉ではフォンリュープの鋭く主題を抉り出すようなタッチで各音が炸裂している。 曲中に天使と悪魔が共存するかのような葛藤が繰り広げられる。 フォンリュープの驚異的なテクニックと表現幅の広さによって、この曲の外的効果と内的情感が渾然一体となり、実に雄大なスケールをつくり出している。 この曲の多くの演奏の中でもトップクラスに入る超絶的名演と言えるだろう。


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